取締役の責任

このページでは、会社法に定められている取締役が負うべき責任について解説しております。新しく会社法が改正されたけど、取締役の権限ってどのように変わったの?」
「取締役の責任って一体どの範囲まで及ぶの?」

 取締役は会社に対して、「善管注意義務」を負っています。「善管注意義務」とは「善良なる管理者としての注意を持って職務を遂行する義務」です。取締役は、会社から委任を受けて経営を担当する者ですから、受任者としてこのような義務を負うのです。

 次に、「忠実義務」も負っています。これは、「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のために忠実にその職務を遂行する義務」です。忠実義務は、善管注意義務の内容を明確にしたものといえます。

 取締役が責任を負う類型としては次のものがあります。

  1. 違法配当
  2. 株主への利益供与
  3. 他の取締役への金銭貸付
  4. 利益相反取引
  5. 法令・定款違反行為があった場合

 取締役が自己の利益を図る取引を行うのが、4の類型です。また、自己の利益を図るわけではなくても、法律で定められた手続きを無視して業務執行を行い、会社に損害を与える特定の行為をした場合の責任が1、2、3の類型の責任です。

 取締役の責任は、それだけにとどまらず、さらに広く法令や定款に違反する行為があった場合にも生じます。これが5の類型です。特に、事業をきちんと監督していなかったために他の取締役が不正な行為を行って会社に損害を与えた場合にも責任を課されることがあります。

 会社法は、改正前商法とは異なり、株式会社の取締役が負うべき責任を、原則として過失責任であるとしました。また、改正前商法では取締役会決議に賛成した取締役もその行為をしたものと見なす、と定められていましたが、その規定も削除されました。

 取締役の責任の重さを違法配当を例にとって考えてみます。

 旧商法では、違法配当をした取締役及び違法配当の議案を株主総会に提出することに同意した取締役は、会社に対して、連帯して違法配当額を弁済すべき責任があるとされていました。

 そして、それは、無過失責任でしたので、粉飾決算を知らずに決算書類が正しいものと考えていた取締役であっても、責任を負いました。

 しかも、取締役会の決議に賛成した取締役は、違法行為を行った取締役と同様に違法な業務執行を行ったものとみなされていました。

 しかし、それでは酷であることから、会社法(平成18年5月1日施行)では、違法配当に関する責任は取締役に過失があったときにだけ負わせるという過失責任に改められました。そして、取締役会で賛成しただけで責任を負わされるという規定もなくなりました。

 したがって、取締役の責任は軽減されたと言えます。ただ、過失がなかったということは取締役の方が立証する必要がありますので、立証に成功できるかどうかが重要になってきます。

 多くの企業では、未だに、取締役会議事録に「第○号議案を審議し、一同、異議無く承認した。」という議事録を作成して、議論の過程を議事録に残していません。しかし、これでは立証の役に立ちません。

 裁判を提起されてから、「当時はいろいろ考えていました。」と申し開きをしても、裁判官は証拠がなければ過失がなかったとは認定してはくれません。取締役が違法配当議案について取締役会において、いかなる発言をしたのかを取締役会議事録に記録として残すことが肝要となります。

 取締役の責任は、報酬が低くても、あるいは無報酬であっても、原則として免れることはできません。責任を負うということは、取締役が個人の財産をもって賠償しなければならないということです。

 また、取締役を退任しても在任中のものについては責任を免れることはできません。さらに、取締役が死亡した場合には、取締役の賠償責任は家族(相続人)にも承継されるおそれがあり、家族に及ぼす影響も無視することはできません。ですから、取締役に就任する際にはこのようなリスクを検討した上で、慎重に判断すべきです。

 取締役の責任問題については、まずは弁護士にご相談することをお勧めいたします。